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2010/06/06

忘られぬ人(1)

昭和二十七・八年ごろ、中国北京の新鮮胡同に、片目の眼球がなく、もう片方の目も殆どみえない老人が天秤棒をかついで、雨でない限り同じ場所に来て座り込み南京豆を売っていた。老人が目が悪いのを知る悪童共がときどきスキをみて南京豆を盗みにくるのを見張る役目で老人と親しくなった。
帰り際にいつもほんの少し豆を手に握らせてくれるのが十才位の腹をすかした身にはなんとも嬉しく、お互いに殆ど口もきかず黙りこんでボーッと一日座っていたのを思い出す。老人は背を丸め、たまにかすれた声で売り声を発する以外ピクリとも動かず、何を思い長い一日を座っていたのだろうか。その横顔がいまだに眼に焼きついている。あれから半世紀以上の月日が流れ去り、あの老人と同じぐらいの年令に。そしていまはボーッと一日机の前に座っている。

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