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2010/06/23

忘られぬ人(2)

昭和二十二・三年ごろ、六・七才のとき、満州ハルピン。
ロシアの大きな寺院のはずれに、いつも乞食が一人立っていた。ロシア(旧ソ連)の兵隊か、ボロボロの緑色の軍服(外套)を着て、片足がなく松葉杖をつき、赤茶けた長いひげ。いつも吐く息が凍って口のまわりだけが白く霜がおりたようになっていた。氷点下二十度位だったろうから当然のことか。
ある日、恐る恐るそばを通ったらぐっと肩をつかみ、ニヤッと笑ってぼくの手を自分の外套のポケットに入れた。
何か小さな固まりのようなものを感じ急いで手を引き抜いた。彼は黙って自分の手でポケットから白い小さな固まりを出して口に入れてくれた。いまにして思えばそれは滋養糖だと思う。その甘くて美味しかったこと、甘さという味覚を意識したあれが最初か・・・。それからはよく彼のそばで時を過ごした。半月ほどして突然彼の姿がどこかに消えた。凍え死んでしまったのだろうか・・・。

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